ay_16r: (Marcia)
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Tales of Xillia
Short Story; Side Wingull


ウィンガル
追億の翼

p01 (TOX Fan's Bible 114)

♦ 王子の誕生
産声に続いて、幾晚にも渡る祝宴が花開いた。
銀の皿にはア•ジュール各地でこの日のために狩られた獣たちが山と盛られ、金のゴブレットには琥珀色に輝く見事な酒の数々が注がれて円卓を埋め尽くした。まばゆいばかりのその光景は、幼子だったニルスの脳裏に、忘れられない記憶として焼き付いた。
ニルスが生まれ育った地域は、ア•ジュールの中でも指折り数えられる巨大部族ロンダウの領地で、支配者であるロンダウの一族は周辺の諸部族を従え、北の大地に広大な名声と多大な影響力を持って、存在感を誇示していた。
ロンダロンダウはア•ジュール創世の神話にも語られる七子 (しちし) のひとつで創世の賢者クルスニクの子孫をその祖に持つと伝えられる。すなわち他のどんな氏族よりも神聖で尊く、格式があり、君臨するにふさわしい無二の存在---というのが、ロンダウの名を持つ者の自負だ。
しかし十数年前の指導者の交代ののち、傑物として知られた族長ラーシュは長く世継ぎに恵まれなかった。ラーシュには三人の弟があり、子がなければ彼らが後を継ぐ順序だが、いずれもラーシュほどの才覚は持ち合わせていない。
カゃ家名によって権勢を保つ社会にあいて、者の不在はそのまま一族の衰退を意味する。ゆえに王子の誕生はラーシュの悲願であり、リィンが無事に生を受けて生まれ落ちたことは、取りも直さず、ロンダウの盤石な未来を投影する、大きな意味を持っていた。
巨大な運命を小さな体に背負い、ゆりかごの中で無防備に眠る未来の王と、それを見守る利発そうな子供の姿は、あるいは民の希望の象徴といったところであろうか。
ロンダウ族長の嫡子リィン・ロンダウ零歳。ロンダウ家家臣ニルス•フリーデン四歳の、水の季節だった。

ニルスの母親は娘の時代から、ラーシュの奥方である皇后の衣装係をし、平民の出ながら城に出入りを許されていた。女官の仕事は未婚の娘にとっては最大の栄誉だが、そうした職を射止めたことを笠に着るでもなく、朗らかで素朴な母は皇后の覚えがよかったと見え、のちに生まれたニルスともとも城のみなにかわいがられた。そうした縁で彼は生まれたばかりのリィンの遊び相手と正式に認められ、ゆくゆくは護衛として仕えるという誉れを授かったのだ。
リィンとは、古い言葉で「輪廻」を意味する「リィン力ーネーション」からとった名なのだという。母が皇后に聞かされたことを、宝物のようにそっと教えてくれた。魂が人と精霊との世界を行き交いながら、生まれ変わり、新しい命を育むリーゼ•マクシアの神秘。
「だからリィン様のお名前は、世界の真理そのもので、何よりも尊いのよ」
生きた精霊の姿も魂の流れも、この目で確かめようもなかったが、その名ほどロンダウの跡継ぎにふさわしいものはないと、ニルスは考える。生まれながらにして額に聡明さをたたえた、白磁の頰と漆黒の髪が美しい、高貴にして神聖な王子。彼の傍に仕えすべてを支え、やがては身を挺して守る使命を与えられたことを、このうえもない幸福だと思った。

権力者やその後継者とは、表向きには文武に優れた人格者だと標榜される。君臨する者とは存在そのものが一種のプロパガンダであり、あるいは象徽だからだ。そうして美辞麗句で飾り立ててみはしたが、蓋を開けてみれば何のことはない、周りの人間にダシにされるだけの凡人だった、というのはよくあることだ。
しかしリィンは、まったくの誇張なしに、ロンダウの歴史に残る神童であった。
言葉を覚え、歩き始めた時分こそ、ニルス、ニルスと、兄弟同然の友の後を追い、ベそをかいていたが、やがて自在に遊び回る年になると、ふたりの年齢ゆえの決定的な差は、瞬く間に差を詰められ、数年も立たぬうちに立場が逆転することになる。

{ おもな登場人物 }
ニルス•フリーデン ロンダウ族長の嫡子リィンの従者
リィン•ロンダウ ロンダウ族長の嫡子。のちの四象刃 (フォーヴ) ウィンガル
アースト•アウトウェイ アウトウェイ族長の嫡子。
ア•ジュール連合国を興し王ガイアスを名乗る
ラーシュ リィンの父親。ロンダウ族長
ヤーン ラーシュの弟でリィンの叔父。次男
イング ラーシュの弟でリィンの叔父。三男
ブルーノ ラーシュの弟でリィンの叔父。四男
ジャオ 四象刃(フォーヴ)のひとりでキタル族長。
本名オルテガ•キタル
少女 ジャオとともに暮らした過去を持つ。本名エリーセ•ルタス


p02 (TOX Fan's Bible 115)
ニルスとて、その年齢にしては十分以上に、優秀な子ではあった。しかしリィンがその内に持つ泉が、いかに深く澄み、智の水を無限にたたえるものであっ たか。
読み書きをハオの哲学書で覚え、竜盤の駒の動きに思考の過程を見出し、やがて兵法書を片手に兵器廠の軍人のところを訪ね歩いては、過去の戦の解釈を迫るようになった。重箱の隅をつつくような細かい質問に手を焼いた彼らは、ラーシュに懇願して、リィンが興味を持ったそれぞれの分野に、教育係である学者を雇い入れ、未来の族長に宛がうはめになる。
学問ばかりでない。リィンは芸術にもひとかたな らぬ興味を示した。ロンダウの族領にいるだけでは一生目にすることもないような品々がア•ジュル各地はおろか、リーゼ•マクシア中から彼のもとに集められた。そうした一流の物と知識とに囲まれてリィンは一層己の教養と感性とを研ぎ澄ましてゆき、ニルスもまた、それらにともに触れる機会に恵まれ、年下の主であるリィンの薫陶を得た。
互いを己の半身のように気遣い、少年たちは城のとこにでも手を取り合って現われる。
闇のような黒い髪を絹糸さながらになびかせ、険のある独特の表情で、つんと澄ましているリィンと、 金の巻き毛を揺らし、いつも上気した薔薇色の頰で笑うニルス。ふたりは子犬のように庭でじゃれ合い、雛のように肩を寄せ合って眠った。

知り、学ぶということの意味を、大人よりもずっと深く理解し、体現するリィンの姿は、ロンダウの支配階級としてはやや異質なものでもある。
父親であるラーシュや歴代の族長がそうであるように、ロンダウでは普通、武勲を立て力を誇示する人物ほとその価値を評価される。実際にラーシュも叔父たちも、戦によって相手をねじ伏せることが何よりの力の証明だと信じていた。机の上で策を練ったり政治的な駆け引きをすることは、力に自信のない軟弱者のすることで、族長やそれに続く人間は、軍旗のはためきと剣戟の響きによって語られるものであるべきなのだ。
リィンも武器を持つ年頃になれば、「偉大な族長ラーシュ」の息子として、己の力を知らしめるために、否が応でもそうした粗暴で粗野な闘争に狩り出される運命にある。ロンダウが、ア•ジュールが、これまでと同じ歴史を歩み続けるなら、そうだった。しかし実際は、世界は大きなうねりの中心に向かって、 動き始めいた。

♦ ファイザバード会戦
長年膠着状態にあったラ•シュガルが、ついにア•ジュルの領土を狙って侵攻してくるという。
ラ•シュガルは、ファイザバードの湾を挟んで大陸の南側に位置する大国で、ア•ジュールが部族ごとの領邦で形成されているのに対し、王家であるファン家が全土を統一している。その支配は徹底され、厳格な政治体制の下でさらなる支配権の拡大を目指すラシュガルは、いまだ前時代的な部族間抗争に明け暮れるア•ジュールを一網打尽にする機会を以前からうかがっていたのだろう。
両国の地形から、戦場はファイザバード荒野のあたりになると予測され、ア•ジュールではロンダウの族長ラーシュを指揮官として、敵軍を迎え撃つ連合軍が組織された。
幾百もの部族から、腕に覚えのある屈強な戦士が隊列を組んでラーシュの下へ馳せ参じた。ロンダウの都は物々しい武装の男たちであふれかえり、城では連日連夜、族長らが集い、勝利を願う宴が繰り広げられる。
名だたる部族に混じって、北の少数部族アウトウェイから、老いた族長の名代を名乗るわずか十二歳の少年が謁見に訪れたのは、出陣まで数日というころだった。もともとが小規模な部族で、彼らだけで はまともな編隊を組めないため、族長代理の少年以下、アウトウェイの戦士たちは、ロンダウの傘下で戦うという。
王族でないニルスは、リィンとは離れ、引見するラーシュとリィンの様子を末席から見守った。自分と同い年の少年「アースト」は、背丈こそ小柄な大人と同じくらいにはあるが、成長の途上にある肉体はまだ骨張って、いささか心許ない。あと数年もすれば肩を覆うであろう戦士らしい筋肉も、今はまだ戦装束の下に息を潜めていた。
ラーシュも、リィンの叔父ヤーンたちも、もっともらしい顔でアーストの口上を受けてはいたが、内心では失笑を禁じ得ない。ラ•シュガルの盟約のためには、誰かしら身分ある者を派遣しないわけにはいかないとはいえ、これではお飾り隊長が関の山だ。四方を忠実な側近にがっちり囲まれて、ちょっと剣を振ったら後方に下がって天幕の下で指揮棒でも振り、それで
「初陣を飾る」といったところか。
「とうの昔に落ちぶれた弱小部族が、子供ひとりをもったいぶって、片腹痛い」
「ヤーン様かイング様の部隊につけて、本物の戦場を見せてやれば、当人も思い知るでしょう」
「いやいや、泣いて逃げ出されては、保護者の役目を果たせんからな」
引見を終えたラーシュらは廷臣たちと好き放題に言い合い、こき下ろしては、愉快そうに笑い飛ばした。しかしリィンは押し黙ったままで、顔からはいつもよりさらに血の気が引いている。大人びているとはいえ、まだ八歳の子供だ。物々しい空気に当てられたのだろう。
「おやおや、リィン様には少々剌激が強すぎましたかな。大丈夫ですぞ、こたびの戦、リィン様は母君のお膝で吉報をお待ちになる係なのですから」
またも起こる笑い。だがリィンはそんな無遠慮な大人たちに目をくれることもなく、震える手でニルスの腕をつかんだ。
「疲れただろう。心配するな」
「ニルス。あのアウトウェイの者。嫌な予感がする」
まさか。僕と同じ十二歳の子供だぞ。そう言いかけたが、年下の天才の目が、その言葉を呑み込ませた。
宮廷の大方の人間は、不安げなリィンの様子など、まともに取り合いもしなかった。そして見立て の甘さをまもなく思い知らされることになる。

のちに「ファイザバード会戦」と呼ばれた、ア•ジュールとラ•シュガルの衝突は、実際には痛み分けによって幕を閉じている。霊勢 (れいせい) が安定していたはずのファイザバードの荒野が突然大津波に襲われて、兵も馬も何もかもが押し流されてしまったのだ。両軍とも大きな痛手を受け、とりわけ人的被害は計り知れず、兵士として派遣された家族を思いもかけない形で失った人々は深く傷つき、その後しばらくは領土争いどころではなくなった。
ずっとあとになって、この大津波は、断界殼 (シェル) の外側の世界「エレンピオス」の軍隊が断界殼 (シェル) に干渉しようとしたため、精霊マクスウェルが大いなる力を振るって対抗し、その結果引き起こされたのだと判明した。しかし当時の人々にそうした人智を超えた事情なとわかるはずもない。
ア•ジュールの軍勢は大津波が到来する直前まで、我先にとラ•シュガル軍に突っ込み、敵兵を追ぃ回す のにやっきになっていた。普段小競り合いをくり返している部族同士が、にわか仕込みの連合軍を仕立て上げたところで、所詮は武勲の奪い合いになるのは目に見えている。それぞれの部族が功を焦り、津波の到来を察知するのが遅れ、ロンダウをはじめどの部族も甚大な被害を被った。
少年アーストの部隊も、彼を残して全滅した。部下を犠牲にし、高い身分の者だけが生き残る。戦場でよくあるお決まりの結末だと、誰もがそう思った。

♦族長リィン
p03 (TOX Fan's Bible 116) actually, the end of 2nd page is that "の実態が浮き彫りにな" in the middle of the following phrase, but I've unite two part of the phrase.
会戦の混乱が収束するにつれて、しかしアウトウェイの事実上の長たるアーストの実態が浮き彫りになった。ひとつは彼が他のどの隊にも先駆けてラ•シュガルの軍勢を脅かし、名軍師イルベルトを翻弄したという件である。あの悲劇がなければあるいは、厚い防御を打ち破り、懐に攻め込んでいたかもしれない。また津波の到来を察知し、軍の移動をくり返し進言していたともいう。
そしてもうひとつは、他の将官たちの前で当てつけのように彼の忠告を無視したロンダウ族の上官を、戦の混乱に紛れて暗殺したという噂である。
殺されたのはアーストの実妹の婚約者と目されていた男。リィンの親戚に当たり、ニルスと同様に側近として仕えていた年上の友人だ。両者の経歴や立場を考えれば、そんな人物をアーストが敢えて手にかけるとは考えにくい。
多くの兵が失われた現実を前に、大部族ロンダウと、小さなアウトウェイの一族の確執はうやむやになった。だがアーストへの漠然とした恐れだけは、津波の姿とともに、生き残った者たちの心に刻まれた。
戦だけでなく、あらゆる巨大な渦を、技巧を凝らした舵取りではなく天賦の感性によって漕ぎ行く 才を持つ人間というのが、まれにいる。アーストがもしそうした生まれついての君主の資質を備えた人間なら、微妙な均衡のうちに保たれているア•ジュール世界を違からず脅かしかねない。経験の浅いうちに適当に懐柔できればいいが、自分の力で渡り合うことを知ってしまったら、抑え込むことは不可能になるだろう。
だが結局、アーストのあまりの若さが、周りの判断を鈍らせた。
ファイザバード会戦から三年ののち、族長となった少年アーストが周辺部族を従えてロンダウに叛旗を翻したとき、おもだった部族の重鎮たちは、その決起をまるで察知することができなかったのだ。
目をかけてやったはずの弱小部族の子供に、今度こそ裏切られたとラーシュは激昂し、すぐさま兵を引き連れて、アーストの討伐に向かった。しかし格の違いを見せつけてやると豪語して城を飛び出した族長の帰還は、泣きじゃくるアーストを縄に捕らえた凱旋ではなく、すでにこと切れて血に染まった軍旗に包まれた無言のそれだった。アーストは初陣からわずか三年にして、恐れ多くも巨大部族ロンダウの族長を討ち取ったのだ。
アーストの目的は、己がロンダウ族長の地位に取って代わるという野心ではない。もっと壮大な改革の理念、すなわち誰も成し得なかったア•ジュール全土の統一というとてつもない野望を抱いていた。------ そう、因習と血が脈打つア•ジュールでは、「野望」と受け取られるのは当然のことだ。しかしその声はまもなく「大志」となり、大地を染め始める。ア•ジュール最古の部族として名を知らしめる、サラフスの王メラドさえ征服の射程に捉え、剣と智に秀で戦に長けた若者が率いる、部族や派閥を超えた兵団「トロス」を組織し、未知なる大義に感化された者たちが、続々と彼の下に集っていった。
ラーシュの死の上にアーストの名が鎌首をもたげ、ロンダウの城には不安な気配が漂い始める。
「リィン」
ニルスはただひたすら、父親を亡くしたリィンが心配でならなかった。一族の長を親に持つ宿命とはいえ、死を悼む間もなく、わずか十一歳でその後釜に据えられる、小さな少年
「大丈夫か?」
「大丈夫?大丈夫とはどういう意味だ」
「......無理するなよ。ラーシュ様のような戦慣れした方が討たれたんだ。あのときのお前の見立ては、やっぱり正しかった」
それまで努めて遠くを見ていたリィンの目が、二ルスを見据える。
「けれと僕は、お前のことは絶対に守ってみせる。アースト•アウトウェイがお前まで狙って来ても、必ず返り討ちにするから」
気の利いた言葉のひとつでも言おうとしたのだろう、不器用に口元を歪めたが、結局何も紡げずに、リインはまた目を伏せた。
「叔父上たちはあの男を討つのだと血眼になっている。あの様子ではこちらの言うことなと聞いてくださらないだろう。遠からず、私自身があいつと戦うことになる」
再び顔を上げたとき、月に照らされたリィンの横顔は、一度に十も年を取ってしまったように大人びて見えた。

リィンの言葉とおり、ヤーン、イング、ブルーノの三人は、兄ラーシュの弔い合戦とばかりに、アーストの拿捕に乗り出した。少年があおり立てる新生ア•ジュールの構想や「トロス」の設立は、ニルスには夢物語のようで、自分がとこかの寒村に生まれでもしていたら、耳触りのよい理念に飛びついただろう。しかしリィンを支え、ロンダウの繁栄を支えるべき自分には妄言だ。リィンに言わせると、若者が体制に疑問を持ち始めたとき、その支配の形にはすでに多くの歪みが生じているのだという。ならばなおのこと、アーストの存在は、リィンにとってもロンダウの繁栄にとっても、許容できるものではない。
ところがヤーンたちは、ここに来てさえ、アーストの背後にあるア•ジュールの時勢に、まったくと言ってよいほと目が向いていなかった。彼らが求めるのはアーストを見せしめに処刑することであり、リィンを族長に担ぎ上げた下で、摂政の名を笠に着て権力を欲しいままにすることだったのだ。
世論を逆手に取ったあぶり出しも、陽動作戦や包囲の布陣の方法も、進軍の手順の一から十まで、リィンの助言はことごとく無視された。彼らはこと竜盤の上で駒を動かすことに限っては、リィンの人並み外れた能力を認めてはいたが、実戦にかけては経験を積んだ自分たちのほうが長けていると信じて疑わ なかった。
ラーシュでさえ太刀打ちできなかったアーストに、数で勝利できると思い込む、それが彼らの限界だっ た。ラーシュの死から一年あまりの間に、次男ヤーンと三男イングは立て続けに討たれ、その弔いのために自ら討伐部隊を指揮したリィンは、奇抜な戦略によって何度もアーストを追い詰めるものの、貴族の将軍たちの保身に足元をすくわれて敗北を喫し、恐れをなした四男ブルーノは、アースト討伐に駆り出されたはいいが、道中で錯乱して馬ごと谷底に落ち最期を遂げるという、不名誉極まりない有様だった。
そのころにはロンダウの勢いは完全に挫かれ、ブルーノの死を皮切りに廷臣や貴族連中は血相を変えて王宮を逃げ出していた。アーストは今や「世界を牽引する者」を意味する「ガイアス」を名乗り、着実に力を増している。ある者は一日でも早く、「ガイアス」に忠誠を誓って保身に走ろうとし、ある者は勝ち馬に乗って自領を拡大しようと知恵を絞り立ち回った。ラーシュの死後も気丈に振る舞っていた皇后は、そうした無様な王宮の混乱に誇りを傷つけられて自害し、城は日を追うごとに荒んでいった。
リィンの周りには、ニルスをはじめとする忠実な臣下がわずかと、身を引く機会を逸した下級貴族たちがちらほらと残されるばかりになった。


♦ モン高原の戦い
あれほどの栄華で知られたロンダウは、ガイアスの興隆と入れ替わるようにして、墜落の一途を迪る。しかしそれでもなおリィンの配下には千を超える兵があり、若き族長リィンのもとで一族の誇りを取り戻すべく、ガイアスと戦うことを望んだ。
リィンにしても、父や叔父や、なかんずく自ら死を選んだ母の無念を晴らしたいという思いはひとしおだった。最初の敗北から一年、リィンは戦略を練りに練り、峻険な山脈を背にしたモン高原にガイアスの軍を追い詰める。「小さき知将」と呼ばれるようになっていた族長自らの鮮やかな采配は、ラーシュの時代は当たり前だった力押しの戦術がいかにムダが多く、また兵に危険を強いる、強引で不合理なものであったかをまざまざと描き出し、決戦に赴く兵たちの戦意を高揚させた。

Pages 4-7 are coming soon.
O-yasumi nasai.
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April 2013

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